
本ブログでは、養鶏(ブロイラー)とは何か、その基礎知識を農場経営者がわかりやすく解説します。
ブロイラーの特徴や飼育方法、生産サイクル、育成に必要な要素など、初心者でも理解しやすい内容をご紹介します。
- 養鶏って卵を取って売っている仕事でしょ?
- 鶏肉用も育てているんだよね。
- 地鶏との違い?ただ品種が違うだけなんじゃない?
- 意外と儲かるんでしょ?
この業界に入るまで私の認識はそれくらいでした(笑)
養鶏とは。ブロイラーとは何か。地鶏、銘柄鶏とは。
一般的な鶏舎の種類、入雛(ヒナの仕入れ)、出荷、次回の入雛準備までの全体的な作業の流れを知っていただけると思います。
また、小規模鶏舎ではどれくらいの収入を見込めるのか。
これから始めようと思っている方、鶏肉に興味をもっている方の一助になれば幸いです。
具体的な一日の業務内容を知りたい方はこちら↓の記事を参考に!
養鶏(ブロイラー)一日の業務内容紹介 | 太陽の本棚 (chunky-nestled.com)
私の専門はブロイラー(肉用鶏)なので、そちらを中心に説明していきます。
ブロイラー・地鶏・銘柄鶏の違い
ブロイラーとは

まず初めに、養鶏とは農業分野の中の畜産の一部で鶏(ニワトリ)を飼育する事で収益を出します。
農畜産と分けて表現される場合もあります。
養鶏業では大きく分けてブロイラー(肉用鶏)とレイヤー(採卵鶏)の二種類の呼び方で区別しています。
ブロイラーとは肉用鶏の一品種であり、食肉専用に品種改良されている大量飼育に特化させる為に複数種と交配させた雑種鶏の総称です。
現在、日本国内で流通している鶏肉の大半が『ブロイラー』で、肉付きが良いのが特徴です。
ブロイラー用に改良されてきた品種の中に「チャンキー」「コッブ(コブ)」「アーバーエーカ」などがあります。それらを総じてブロイラー種といいます。
スーパーで鶏肉を買う時に『若鶏』とラベルに書いてあったら、ブロイラーとして短期間の飼育で出荷された鶏肉ということです。(ふ化後3か月齢未満で出荷)
ブロイラーでは孵化場で生まれたヒヨコを購入し、入雛から35日~45日~50日~60日~で出荷と、様々ですが成長速度の速さを生かした出荷が特徴です。
昭和の頃は60日程の飼育が多かったようですが、令和になった最近では45日あれば3キロ前後まで育つ鶏になるような品種改良や餌の改良が進んでいます。
出荷時の大きさは基本的に飼っている日数とともに大きくなりますが、2キロ前後~3キロ前後と、その後どのような商品として市場に出回るのかによって飼育期間を決めています。
つまり、出荷後どんな鶏肉として販売されるのか?によって狙う体重が変わってくるのです。
私の農場では販売先の処理工場から2.5キロ~3.3キロ以内でと指示があり、45日前後の飼育期間で出荷を年間で約4回のサイクルでまわしています。
地鶏とは

地鶏として販売するには下記のような条件が必要になってきます。
表示ガイドライン|食鳥業界の方へ|もっとチキンが好きになる チキンの里-一般社団法人 日本食鳥協会 (j-chicken.jp)
- 明治時代までに国内で成立または定着し、日本の在来種の遺伝子(DNA)が50%以上入っていて、出生の証明ができるものを素びなとする。
- 孵化後、28日齢以降は平飼いで飼育していること。
- 28日齢以降、飼育密度が1平方メートル当たり10羽以下で飼育していること。
- 産まれてから75日以上飼育して出荷すること。
この4つの条件を満たした鶏を『地鶏』と呼び、販売してよい事になっています。
銘柄鶏とは
日本農林規格(JAS)による定義はなく、
「銘柄鶏」とは、我が国で飼育し、地鶏に比べ増体に優れた肉用種といわれるもので、通常の飼育方法(飼料内容、出荷日令等)と異なり工夫を加えたものをいう。
と一般社団法人 日本食鳥協会が定義しております。
ブロイラーにハーブや特殊な餌を与えるなど飼料や環境など工夫を加えて飼育されたことにより、一般的なブロイラー肉よりも味や風味などを改良することで鶏肉独特の鶏臭さを抑えた商品などがあります。
各企業がそれぞれ考えた名称で多種多様なものが存在します。
鶏舎の種類

鶏舎にも様々な呼び方、種類(構造)があります。
床の違いだけでも、一般的な鶏舎の床を『低床式(平床式)』というのに対して『高床式』という床を網状にする事で鶏と鶏糞を分離した構造もあります。
また、換気構造にも数種類あります。換気構造の違いを鶏舎の種類と組み合わせることで〇〇換気ウインドレス鶏舎と言う場合もあります。
主なものとして、『トンネル換気』『縦引き換気』『横引き換気』などがあります。いずれも換気扇を使っている事は共通していますが、入気(空気)をどう取り入れてどういう経路で流すかに違いがあります。
以下で紹介しているのは、主に採用されている鶏舎を3つに分けた時の呼び方です。
オープン鶏舎(カーテン鶏舎、開放鶏舎)
オープン鶏舎では壁の大部分が金網状になっており、壁面に備え付けてあるカーテンや跳ね上げ戸の開放具合を調節する事で室温調整や入換気を行います(自然換気)。空気を撹拌させるために大型の扇風機(循環扇)を使用することもあります。
比較的安価で建てる事が出来るオープン鶏舎は舎内温度の調整難や金網の経年劣化による小動物や獣被害があります。
また、舎外(外気)の環境による影響を受けやすいので舎内のコンディション(温度や湿度、空気の質やヒナの快適性)の維持、調整を常に管理する必要があります。そのため、舎内の温度を均一に維持することが難しく、加温する為の燃料費が高くなりやすいです。鶏のバラツキ(個体の不均一)などの問題点も課題になります。
ウインドレス鶏舎(セミウインドレス鶏舎)
ウインドレス(無窓)というだけに基本的には壁に覆われた鶏舎です。
ウインドレス鶏舎では入気口と換気扇を用います。オープン鶏舎での換気を自然換気と言うのに対してウインドレス鶏舎では強制換気と言います。
強制換気にも設定した温度を上回ると換気扇が稼働するタイプのもの、換気扇の回転スピードが増減する(インバーター制御)タイプのものなどがあります。
オープン鶏舎との比較では外気の影響は減り、舎内温度をコントロールしやすいのが特徴です。
しかし、熱が舎内にこもり易く自然換気もほぼ出来ないので空気の質や室温の管理、調整の難しさもあります。
入換気を換気扇に依存しているので急な停電時や電気トラブル時においても、迅速な対応が求められます。
小動物による侵入も課題です。経年劣化等でできた壁や天井などの小さな穴からネズミの侵入などがあるからです。
システム鶏舎(環境制御鶏舎)
システム鶏舎では温風育雛という方法が一般的になってきています。
熱交換機を使った育雛ではエネルギー効率が良く、環境コントロールを容易にします。
舎内の温度勾配も少なく、ヒナの日齢に対して理想的な室温を維持管理しやすいのが特徴です。
システム鶏舎では建築費用や維持コストが高額になり収益とのバランスの都合上、大規模な施設になるなどの課題があります。
農業・畜産関連 | 技術紹介 | パナソニック環境エンジニアリング株式会社 | Panasonic
全体的な作業の流れ

鶏舎の種類や規模によってさまざまな方法で行われています。
ここでは私の農場、小規模(総羽数約3万4000羽)ウインドレス鶏舎の一例を紹介します。
入雛(にゅうすう)
入雛とはヒナの搬入作業の事です。
ヒナは孵卵場から専用のトラックによって運ばれます。
トラックには換気扇が付いており、エアコンを利用して温度管理に注意しながら運ばれてきます。
1カゴあたり100羽程入ったカゴ(5~6キロ)を仕入れ羽数ぶん鶏舎の中に運びます。
一鶏舎分の鶏(同じグループ)を基本的に一度でまとめて入雛することをオールインと呼びます。
大きな養鶏場ではフォークリフトなどの乗り物を使って運び込む場合がありますが、小さな農場では鶏舎の天井の高さや搬入口などが対応していない作りになっている事が多く、手作業で行うのも珍しくありません。
舎内に運び終わったら、親鶏の週齢、ヒナの健康状態の確認や体重測定、羽数の確認をし、準備しておいた巣の中へ放ちます。
育雛

入雛当日を0日齢(令)と呼んでいます。
鶏は日齢ごとに適温帯が変わっていくので、舎内の温度管理、調整に注意が必要になってきます。
基本的には成長と共に舎内温度を下げていき、同時に入換気量も増やしていきます。
- 0日齢~6日齢まではヒナ用に小さく作ってあった巣を広げていったり、ニップル(給水機)の高さを調整、エサ皿への飼料補充が主な作業になります。
- 7日齢(一週齢)以降の主な作業として、入気口の開度調整、換気扇の稼働台数変更や暖房器具の火力調整です。
- 14日齢(2週齢)~ほどになると個体差はありますが、換羽が始まり黄色かったヒナが白い羽に生え変わり、徐々にニワトリになっていきます。この頃に義務化されているワクチン投与を開始するのが一般的です。
- 21日齢(3週齢)~頃には羽も白く生え揃いだします。ヒヨコとニワトリの中間のような姿です。季節にもよりますが、このあたりで舎内の暖房器具を消火し片付けます。
- 28日齢(4週齢)~になると、赤いトサカなどおおむねニワトリになっています。必要な換気量が増えてきて腹水症などの病気に一層の留意が必要になってきます。
- 35日齢(5週齢)~42日齢(6週齢)~では舎内の空気の質、床(敷料)の状態等に気を配りながら必要に応じて対応します。夏場では厚さによる死亡鶏(熱死)が特に発生しやすい日齢です。
- 42日齢(6週齢)以降では、提携している企業(出荷先)との計画に沿って出荷準備に入ります。
育雛管理について(Aviagen Ltd./A.Tinch、D.Nicholson) | 株式会社日本チャンキー (sakura.ne.jp)

28日齢↑
出荷

出荷当日は鶏を出荷(捕鳥)するための準備を行います。
捕鳥開始時刻と出荷羽数は事前に輸送、出荷先企業と計画してあります。
運搬時に使用する少し大きめのカゴに1カゴ当たり6~8羽の鶏を入れます。(1カゴ当たり17キロ~24キロ)
小規模鶏舎では一般的に人の手で鶏を捕まえてカゴに入れますが、機械で集めるという方法も存在しています。
カゴは舎内に準備した塩ビ管やアルミレールの上を滑らせて舎外に運び出します。
すべての鶏をトラックへ積み込み終わったら終了です。
一鶏舎分の鶏(同じグループ)を同時期にまとめて出荷することをオールアウトと呼びます。
出荷羽数や作業人数にもよりますが、開始から終了までの作業時間は1万羽出荷時でおよそ4時間~かかります。
洗浄・消毒・入雛準備

出荷が終わり、鶏舎内が空になっている期間を空舎期間と呼びます。
この空舎期間に『洗浄』『消毒』『入雛準備』を済ませ、次回の準備をします。
洗浄
舎内の鶏糞を外の鶏糞置き場へ移動させたあと、洗浄作業に入ります。
動力ポンプから出る高圧(2~3キロ)の水、洗剤を使って洗浄していきます。
床、天井、エサ皿(給餌機)、ニップル(給水機)、換気扇や入気口など隅々まで洗います。
消毒
洗浄後、1日~2日程あけて一度舎内を乾燥させます。
しっかり舎内を乾燥させ塩素系、殺虫系などの消毒を行います。
消毒では、ウイルス・細菌・真菌、寄生虫や衛生害虫の駆除・殺菌・除菌を目的に行います。
入雛準備(巣作り)
ヒナを迎え入れる準備をします。
床に敷くオガクズ(敷料)の搬入や補充用の餌、暖房機器の設置などを済ませます。
この一連の入雛準備を『巣作り』と呼んだりしています。
また、換気扇や給餌機、非常用発電機などの動作確認、鶏舎の修繕箇所も点検します。
全てが完了したら暖房機器を稼働させ暖をとり、ヒナを待ちます。
以上を1サイクルとし、一連の工程を繰り返すのが養鶏(ブロイラー)での基本業務になります。
ブロイラーの収入について
ブロイラーでは鶏肉の生産量が売り上げに直結します。
鶏舎の大きさや地域の気候、標高なども生産量には大きく影響を及ぼします。
1㎏当たりの買い取り価格 × 出荷重量 - 経費 = 利益
上記の式において、自分である程度コントロール出来るのは『出荷重量』と『経費』です。
つまり、いかに低コストで品質の良い鶏肉を大量生産できるかが利益を出すための課題になってきます。
私たち生産者は日々の作業の中で試行錯誤を繰り返しながらこの課題に取り組んでいるわけです。
下のリンク先で具体的な経費や収入額をまとめていますので、詳細はそちらをご覧ください。